ア.標題
α-リノレン酸による高めの血圧低下作用に関する研究レビュー
イ.目的
血圧が高めの健康な成人男女対象として、α-リノレン酸を摂取することによる血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)に対する有効性に関する研究レビューを実施した。
ウ.背景
高血圧は、喫煙と並んで日本人の生活習慣病死亡に最も大きく影響する要因である。もし高血圧が完全に予防できれば、年間10万人以上の人が死亡せずに済むと推計されている。高血圧自体は、過去数十年で大きく減少したが、今なお20 歳以上の国民の二人に一人は高血圧症有病者である。高血圧には本態性高血圧と二次性高血圧とがある。二次性高血圧は、甲状腺や副腎などの病気が原因で高血圧を起こすものをいい、日本人の大部分の高血圧は、それらの原因のない本態性高血圧である。本態性高血圧は、食塩の過剰摂取、肥満、飲酒、運動不足、ストレスや、遺伝的体質などが組み合わさって起こると考えられている。
n-3 系多価不飽和脂肪酸は、疾病の予防効果として抗動脈硬化作用や抗血栓作用などの効果を有することが知られている。α-リノレン酸も n-3 系多価不飽和脂肪酸の ひとつであり、エゴマ油やアマニ油等の植物油に多く含まれている。近年では、α-リノレン酸の機能性のひとつとして血圧上昇抑制が報告がされている。高血圧自然発症ラット(SHR)において、α-リノレン酸を投与することによって血圧の上昇抑制が報告されている。また、米国の大規模なコホート調査では α-リノレン酸の摂取が多いほど高血圧の発症率が有意に低いことが報告されている。そこで今回、血圧が高めの方を対象に、α-リノレン酸を摂取することによる血圧低下作用の有用性を検証するための研究レビューを行った。
エ.レビュー対象とした研究の特性
外国語および日本語の文献データベースを用いて検索を行い、対象(P)が健常な成人、原則として、外来血圧値が正常高値血圧者及びI度高血圧者を対象、介入(I)がα-リノレン酸を含む食品が経口摂取されており、そのα-リノレン酸量が定量化されていること、対照(C)がプラセボ、アウトカム(O)が血圧(収縮期血圧または拡張期血圧)の低下を観察していることとした。
オ.主な結果
PICOS および選択・除外基準に適合した2報の文献を採用した。
研究の参加者(P)は日本人健常成人(正常高値血圧者またはI度高血圧者)、男女、30~60歳、被検者は60人または111人であった。介入(I)は、α-リノレン酸として200 mg/日または2.6 g/日、比較(C)は α-リノレン酸を含まないプラセボであり、いずれも毎日の経口摂取であった。アウトカム(O)は血圧の低下で、収縮期および拡張期の家庭血圧測定を用いた評価であった。試験デザイン(S)はランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験、摂取期間は12または24週間、解析方法はMann Whitney U testまたはDunnett’S test、unpaired t-testが用いられていた。なお、研究倫理としてヘルシンキ宣言を遵守して試験を実施し、文書による被験者同意および倫理審査委員会承認が得られていた。
結果は、採用文献1(ID: P-002)では、層別解析による収縮期血圧(収縮期血圧(SBP):対照群;132.8±2.9 mmHg、エゴマ葉粉末(PLP)α-リノレン酸群(PLP群);130.3±4.1 mmHg)の被験者において、α-リノレン酸として200 mg/日の24週間摂取群で、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の平均減少量(群間前後差)は、対照群に比べ有意に大きかった(朝のSBP;P<0.0001、朝のDBP;P=0.0002、夜のSBP;0.0183)。夜の血圧について、2因子分散分析(週×群相互作用)によるサブグループ解析で、PLP群の収縮期血圧(SBP)の平均減少量(群間前後差)は、対照群に比べ有意に大きかった(夜のSBP;P=0.016)。
採用文献2(ID: P-009)では、正常高値血圧者またはI度高血圧者(収縮期血圧(SBP):対照群;135±8.6 mmHg、α-リノレン酸群(ALA群);136.2±8.7 mmHg)において、α-リノレン酸として2.6 g/日の12週間摂取群で、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の平均減少量(群間前後差)は、対照群に比べ有意な低値を示した(いずれもP<0.05)。12週間の試験食摂取後4週間の後観察期間中に血圧は対照群レベルに戻った。α-リノレン酸の大量摂取(7.8g/日)の安全性、特に体内酸化および血液凝固に及ぼす影響について評価した。過酸化脂質濃度、高感度CRP濃度、血漿プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間には、両群間に有意差はなく、血液検査、尿検査に異常は認められず、試験食に起因すると考えられる有害事象は認められなかった。
以上のことから、α-リノレン酸は正常高値血圧者またはI度高血圧者において、副作用のない降圧作用を有することが示された。
カ.科学的根拠の質
採用論文 2 報はプラセボを対照としたRCT試験であり、文書による被験者同意記載があり、倫理審査委員会承認記載されており、科学的根拠の質は確保されている。限界としては採用論文が2報と少なく、潜在的に出版バイアスが存在する可能性は否定できないため、今後の研究の注視が必要である。 |