標題
難消化性デキストリン(食物繊維)の食後血糖値上昇抑制機能、食後血中中性脂肪上昇抑制機能、およびおなかの調子を整える機能(便通改善機能)についての研究レビュー
目的
健康な日本人が難消化性デキストリン(食物繊維)(以下、難デキ)を含む食品摂取時の、次の機能性を検証することを目的とした。
・食後血糖値の上昇抑制機能
・食後血中中性脂肪の上昇抑制機能
・おなかの調子を整える機能(便通改善機能)
研究レビューにより、健常成人を対象に難デキを含まない食品(プラセボ)と比較した国内外の論文を検索・調査、効果の科学的根拠を評価した。
背景
現在、食生活の欧米化や運動不足などにより、我が国におけるメタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病患者が増加している。難デキを配合した本機能性表示食品の販売にあたり、社会的背景から、食物繊維入り食品を提供することは、日本人の健康維持・増進に役立つと考え、本研究レビューを行った。
・食後血糖値の上昇抑制機能
糖尿病患者の増加は、超高齢化社会を迎えた日本で極めて深刻な問題である。血糖値等の代謝系検診項目に異常がある者は43%が糖尿病に罹患し、「異常なし」の人に比べて10年後の医療費が約1.7倍かかる報告があり、経済的側面からも糖尿病を罹患することの影響は大きい。糖尿病の治療方法は、食事療法、運動療法、薬物療法が一般的であり、食事療法は、血糖値管理による症状の安定化、合併症予防を目標として実施されている。糖尿病に罹患しないためには、食事療法などにより血糖値をコントロールすることが非常に重要であるが、特に、食後血糖値は糖尿病に関する指標として注目されている。日中の食後血糖値が管理されなくなると、夜間空腹時の血糖値が段階的に悪化し、糖尿病が増悪するという調査結果があることからもわかるように、食後血糖値の是正は意義がある。中でも食事療法では、食物繊維の摂取による2型糖尿病の発症リスクの改善効果が報告されており、食物繊維が有する血糖値調節効果が期待されている。
・食後血中中性脂肪の上昇抑制機能
高血圧、脂質異常症、糖尿病など生活習慣病は動脈硬化疾患や虚血性心疾患を誘発する要因となっており、特に脂質異常症は動脈硬化の危険因子であり、食生活の改善などによる一次予防が望まれている。さらに、近年、脂質異常症の1つとして食後に血中中性脂肪値の高い状態が長時間継続する食後高脂血症が、動脈硬化症や冠動脈疾患の発症を早めるリスク因子であることが明らかとなった。そこで、食後血中中性脂肪値の上昇を抑制する食品素材が注目視される。
・おなかの調子を整える機能(便通改善機能)(以下、便通改善機能)
食生活見直しが注目視されている中で、食物繊維が糖尿病、肥満といった疾患や生活習慣病に対する予防効果があると言われ、第6の栄養素としてその重要性が認識されている。しかしながら、日本人の食事摂取基準(2015年版)では、食物繊維の摂取基準は18歳以上の男女の目標量が男性19~20g/日、女性17~18g/日と設定されているが、「平成24年国民健康・栄養調査報告」によると、20歳以上の1日当たりの食物繊維摂取量は平均14.8gとされ、食物繊維の摂取不足が推測される。
1.食後血糖値の上昇抑制機能
レビュー対象とした研究の特性
検索実施日(英文2015年1月5日、和文2014年12月25日)までに発表された論文を対象に検索を行った。レビュー対象は、健常成人、境界域血糖値の成人(空腹時血糖値が126mg/dL未満)としランダム化比較試験(RCT)の査読付論文(専門家による審査を経た論文)とした。最終的に評価した論文は43報あった。利益相反の記載のない論文があったが論文の質に問題はなかった。
主な結果:難デキ4~16gを食事と合わせて摂取することにより食後血糖値の上昇を抑制するという評価に至った。
科学的根拠の質:抽出論文全てが、食後血糖値上昇抑制作用を示し、効果について一貫性のある質の高い結果であった。FunnelPlotの視覚的判断やTrim&Fillmethodから、公表バイアスの存在は否定されなかった。しかし、未公表論文を想定しても、統合効果量は有意であり、公表バイアスの影響は小さいと判断した。以上のことから、難デキの食後血糖値上昇抑制効果の科学的根拠があると判断した。研究の限界として、今後の研究によっては、システマティックレビューの結果が変わる可能性があるため、継続した調査が必要である。また、食事療法だけでなく、運動療法、その他生活習慣などとの交絡因子の影響について、継続した研究が必要と考えられる。
2.食後血中中性脂肪の上昇抑制機能
レビュー対象とした研究の特性
検索実施日(2015年6月25日)までに発表された論文を対象に検索を行った。レビュー対象は、健常成人、空腹時血中中性脂肪値がやや高めの成人としランダム化比較試験(RCT)の査読付論文(専門家による審査を経た論文)とした。最終的に評価した論文は9報あった。利益相反の記載のない論文があったが論文の質に問題はなかった。
※「特定保健用食品の表示許可等について」(平成26年10月30日付け消食表第259号)の別添2「特定保健用食品申請に係る申請書作成時の留意事項」において特定保健用食品の試験方法として記載された対象被験者の範囲は正常高値域:空腹時血中中性脂肪値120~149mg/dL、やや高め:空腹時血中中性脂肪値150~199mg/dLとされる。
主な結果:難デキ5~9g を食事と合わせて摂取することによって、食後血中中性脂肪値の上昇を抑制するという評価に至った。また、論文1 報の追加解析の結果から健常成人(空腹時血中中性脂肪値150mg/dL 未満)においても、摂取群は対象群と比較して有意差が認められたことから健常成人に対しても適用可能であると判断した。
科学的根拠の質:抽出した全ての論文で、血中中性脂肪の上昇抑制作用を示しており、効果について一貫性のある質の高い結果であった。FunnelPlotの視覚的判断やTrim&Fillmethodから、公表バイアスの存在は否定されなかった。しかし、未公表論文を想定しても、統合効果量は有意なことから、公表バイアスの影響は小さいと判断した。以上の結果から、難デキの血中中性脂肪上昇抑制効果の科学的根拠があると判断した。研究の限界として、今後の研究によっては、システマティックレビューの結果が変わる可能性があるため、継続した調査が必要である。また、食事療法だけでなく、運動療法、その他生活習慣などとの交絡因子の影響について、さらなる研究が必要と考えられる。
3.便通改善機能
レビュー対象とした研究の特性
検索実施日(英文2015年1月5日、和文2014年12月15日)までに発表された論文を対象に検索を行った。レビュー対象は、健常成人、便秘傾向の成人としランダム化比較試験(RCT)の形の査読付論文(専門家による審査を経た論文)とした。最終的に評価した論文は26報あった。利益相反の記載のない論文があったが論文の質に問題はなかった。
主な結果:難デキ3.8~7.7gを摂取することによって便通改善機能が認められたという評価に至った。
科学的根拠の質:抽出した全ての論文で、便通改善機能が有意にあることを示しており、一貫性のある質の高い結果であった。公表バイアスは、Trim&Fillmethodにより「排便回数」で3研究、「排便量」で7研究が追加されたが、統合効果は有意のままであった。さらにFail-SafeNは、「排便回数」333報、「排便量」214報であった。つまり効果のない未公表の研究が前述した報数存在しない限り、難デキの便通改善機能は有意であり、公表バイアスによる影響は高くないことが示唆された。以上の結果より、難デキの便通改善機能の科学的根拠があると判断した。
研究の限界として、今後の研究によっては、システマティックレビューの結果が変わる可能性があるため、継続した調査が必要である。また、便通改善機能は生活習慣も重要な要因であり、1つの食品だけを摂取すれば問題ないという考えではなく、食生活や運動などにも注意を払う必要がある。適切な便通改善機能を継続するうえで必要な要素として、食事療法だけでなく、運動療法、その他生活習慣などとの交絡因子の影響について、継続した研究が必要と考えられる。(構造化抄録) |